3)    家族信託の特徴

 

 

アパ-トは、委託者(父)から受託者(長女)に名義が変更され、受託者によって管理・処分がされることになります。

 

一方、賃料や売却代金等の利益を受ける者(受益者)は、委託者(父)が決定することになります。また、委託者(父)は、受益者を何代にもわたって指定することができますので、遺言の代用としても活用することができます。

 

税務上は「受益者」を所有者とみなされますので、信託設定時に委託者と受益者が異なっていれば贈与税が課税されることになりますので、通常は委託者と当初受益者は同一人になるように設定されています。

 

家族信託は、通常委託者(父)と受託者(長女)が信託契約を交わすことによって効力が発生します。

 

信託契約締結後に父が認知症を発症した場合であっても、受託者(長女)に「管理の権限」が移っているために、長女の判断でアパ-トの工事契約の締結やアパ-トを売却し、その代金を施設への入所費用等に充てることができます。成年後見人を付けたり、裁判所の許可など一切必要ありません。

 

しかしながら、父がすでに認知症を発症している状況下であれば、残念ながら家族信託の契約を締結することは難しいのではないかと思われます。その場合には、家庭裁判所に対し、成年後見の申立をする方法が考えられます。

 

 

4) 家族信託のメリット

 

1 当初受益者(父)や第二受益者(妻)が認知症を発症していても、受託者(長女)に「管理の権限」が移っていますので、預金の引出しやアパートを売却する場合は、長女の判断である程度自由に決定することができます。

 

2 アパ-トの大規模修繕も長女の独自の判断で可能となります。修繕費用も信託していれば、銀行から借り入れの必要もありません。

 

3 賃料などの収益を受け取る「お金の権利」は父自らが決定することができるために、父から母、母から長女と何代にもわたって承継させることができます。

 

4 母が認知症で遺言が書けなくとも、母死亡後は長女にアパ-トの権利が移

るようにすることが可能です。

 

5 任意後見と合わせることにより、父の認知症に供えた身上監護や広範囲な

  財産管理が可能となります。

 

5) 家族信託のデメリット

 

収益物件を信託財産に組入れた場合、この信託不動産の年間収支上の赤字は、なかったものとみなされます。

信託不動産に関する損失は、信託財産以外の他の所得と損益通算して課税 対象の所得を減らすことができません。また、その損失の翌年への繰越もできないことになっています。

 

 

 

6) 遺留分への対応

 

相続人の中で、信託の利益を全く受けることができなかった者(遺留分権利者)への対応を考える必要があります。

 

生前に生命保険等で手当をすることもひとつの方法ですし、現金がない場合には受益権の一部を渡すこと、つまり長男へアパ-トの賃料の一部を渡すことによって解決することができます。